書評「衝突する世界」
本書は、2001年9月11日に米国を襲った同時多発テロ後の世界について、 英米の著名な学者・実務者等の論考を集めたものである。出版は事件の約半年後であり、ジョージ・W・ブッシュ米国大統領による「悪の枢軸」発言で注目された2002年1月の年頭教書演説までの展開を踏まえている。同事件についてはすでに多くの本が出版されているが、玉石混交する中で、本書は一流の執筆陣を擁し、注目に値する。本書の目次は、以下の通りである。
00. Ken Boot & Tim Dunne, “Preface”
01. Ken Booth & Tim Dunne, "Worlds in Collision"
02. Francis Fukuyama, "History and September 11"
03. Lawrence Freedman, "A New Type of War"
04. Steve Smith, “Unanswered Questions”
05. Desmond Ball, “Desperately Seeking Bin Laden: The Intelligence Dimension of the War Against Terrorism”
06. Thomas J. Biersteker, “Targeting Terrorist Finances: The New Challenges of Financial Market Globalization”
07. Barry Buzan, “Who May We Bomb?”
08. Immanuel Wallerstein, “Mr. Bush’s War on Terrorism: How Certain is the Outcome?”
09. James Der Derian, “In Terrorem: Before and After 9/11”
10. Michael Byers, “Terror and the Future of International Law”
11. Noam Chomsky, “Who Are the Global Terrorists?”
12. Robert O. Keohane, “The Public Delegitimation of Terrorism and Coalition Politics”
13. Michael Cox, “Meaning of Victory: American Power After the Towers”
14. Abdullahi Ahmed An-An’im, “Upholding International Legality Against Islamic and American Jihad”
15. Avi Shlaim, “The United States and the Israei-Palestinian Conflict”
16. William Maley, “The Reconstruction of Afganistan”
17. Amitav Acharya, “State-Society Relations: Asian and World Order”
18. C. Raja Mohan, “Catharsis and Catalysis: Transforming the South Asian Subcontinent”
19. Paul Rogers, “Political Violence and Global Order”
20. Colin Gray, “World Politics as Usual After September 11”
21. Fred Halliday, “A New Global Configuration”
22. Benjamin R. Barber. “Democracy and Terror in the Era of Jihad vs. McWorld”
23. Jean Bethke Elshtain, “How to Fight a Just War”
24. Bhikhu Parekh, “Terrorism or Intercultural Dialogue”
25. Sissela Bok, “Rethinking Common Values”
26. Chris Brown, “Narratives of Religion, Civilization and Modernity”
27. Andrew Linklater, “Unnecessary Suffering”
28. Saskia Sassen, “Governance Hotspots: Challenges We Must Confront in the Post-September 11 World”
29. Richard Falk, “Testing Patriotism and Citizenship in the Global Terror War”
30. Patricia J. Williams, “Peace, Poetry and Pentagonese”
31. Kenneth N. Waltz, “The Continuity of International Politics”
本稿では、このなかで第24章のパレック(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授)の論文「テロと文化間の対話」を取り上げたい。なお、他の章も含めて、私が本書を読みながらとったノート(英文)はこちらからリンクしているので、興味のある方は参考にしていただきたい。
パレックは、9月11日のテロのような攻撃に対して2つのタイプの対応があるという。第1は、悪事を働いた者たちは、西洋、とくにアメリカに対する憎悪に駆られた冷酷で非人間的な怪物で、彼らは非合理的な存在であるので、理を説いても無駄であり、彼らに理解できるのは力だけである。彼らは非国家主体であるので厳密な意味で我々と戦争をしているわけではないが、戦争状態にあることは確かである。我々は、自衛のために武力行使を含めてあらゆる行動をとらなければならない、というものである。
第2は、テロ攻撃は罰せられ、回避されねばならないが、テロの文脈と原因を見ることも必要である、とする。テロ事件は、歴史的・道徳的空白の中で起きたのではない。犯人は、我々と同じように善悪あわせもった人間である。彼らは、なにも喜んで自分の命を投げ出し、妻を未亡人とし、子供を孤児としたわけではない。彼らがそうせざるを得なかった原因を理解し、いかに困難でも対話を進めなければならない、という。
パレックは、この2つのうち、第2の対応を推奨する。この度のテロの被害の大きさを考えると、第1の対応も心情的に理解できないことはないが、そうすると武力で報復する国家は道徳的に自己をテロリストと同列におくことになる、と論じる
(より極端な議論は第11章のチョムスキーの論文を参照)。テロリストは、アメリカを「邪悪な文明」と呼び、アメリカはテロ国家を「悪の枢軸」と呼ぶ。前者は「永遠の道徳的真理」のために戦うといい、後者は「世界中の人々にとって正しく不変の価値」のために戦うという。また、前者は、アメリカと同盟を結ぶすべての国家は正当な標的であるといい、後者は、テロリストをかくまういかなる者も攻撃対象になるという。両者とも、「文明の衝突」について語り、長く辛い戦争への覚悟を訴える。どちらも怒りと憎悪に駆られて、孤立し、我が道を行き、自分たちの生活様式の絶対的優越性を主張する、といった具合である。
このような自家撞着は、第1の懲罰的なアプローチの、テロをもっぱら軍事的問題を見ることの不適切さを示しており、テロに対抗する有効なアプローチは文明間の対話しかない、という。テロリストやその支援者を抑止するためには、諜報活動、金融上の締め付け、必要なら法に従った武力の行使も含めて、すべての正当な手段に訴えるべきである。しかし同時に、テロの根本的な原因に取り組まなければならない。そのためには、彼らの思考の世界に入り、彼らの苦境を理解し、なぜ彼らは我々がそのような苦境に責任があると考えるのかを探求しなければならい。文明間の対話は、多面的かつ様々な水準で行われなければならない。すべての問題は、歴史的根元を持ち、歴史的な記憶の中に埋め込まれているので、対話は歴史的側面を持つのを避けられず、過去についての緩やかな理解の一致を獲得しなければならない。また、人間は自己の利益とアイデンティティを他の文化 との関係で定義するので、文化的側面にも目を向ける必要がある。西洋とイスラム(今日、国際的テロリズムの多くはイスラム原理主義と結びついている)との対話は、現実世界の経済的・社会的問題から、歴史的解釈、文化的文脈を行き来するものとなり、必然的に複雑で混乱したものとならざるをえない。しかし、文化レベルの対話は、困難であるが逃げるわけにはいかない。テロを根絶するには、文化間の相互理解が欠かせないからである。西洋とイスラムがナルシシズムにひたる一方で他者を悪魔呼ばわりするという悪徳を避け、互いの正しいところと誤ったところを評価し、価値観の違いが許され共存しつつも制御不能に陥らない共通の世界観に到達すること希望する、と してパレックは論を閉じている。
評者も、パレックの議論にまったく同感である。国際社会は、国内社会ほどには社会として成熟しておらず、歴史の現段階では、国家は政治的手段として武力に訴えることが国際法でも許されている。国際社会には中央権力は存在せず、国内政治の比喩は通じないとする論者も多い(たとえば、本書の第7章や第23章)。しかし、国際社会も違法行為(民間人を標的としたテロは明らかに国際法上の犯罪である)に対しては、私刑ではなく公的な司法の手で裁かれるべきである。実際に非常に遅々とした歩みではあるが、現実の国際社会も法と規範によって秩序が保たれる方向に向かっている、と評者は考えている(この点、本書の第12章や拙稿「国際的道義の解明」を参照)。テロに対しても、一国主義的対応ではなく、国際社会全体の合意を形成してゆく、真の「集団安全保障」が求められているといえよう(拙稿「アメリカン・パワーの逆説」も参照されたし)。
評者:中沢 力(なかざわ つとむ)
初稿: 2003年2月12日