「第三の波」時代の国際関係(*)(2000年7月29日)
よく知られているように、アルビン・トフラーは、人間社会の歴史を非常に大きくとらえ、そのなかに三つの波を見出しました。狩猟採集生活から定住生活への移行を可能にした数千年前に始まる農業革命(第一の波)、約二五○年前の産業革命(第二の波)、そして現在、情報通信(IT)革命が引き起こしつつある第三の波です。
世界政府の存在しない国際関係では、有史以来戦争が絶えませんでした。戦争の形態も富の創出形態と密接に結びついています。第一の波の時代は、投石機、大砲なども用いられましたが、多くの場合、人間の筋力を頼りとする刀や槍による白兵戦で最終的な勝敗が決まりました。第二の波の時代は、工業力に裏づけられた大量生産・大量販売・大量消費に見合った大量破壊・大量殺戮の時代でもありました。その最たるものは、ナチス・ドイツによる工場方式のユダヤ人抹殺であり、米国による広島・長崎への原爆投下と言えるでしょう。
湾岸戦争(1991年)、コソボ空爆(1999年)で片鱗が見えた第三の波型戦争の特徴は、次のようにまとめられるでしょう。(1)破壊の非大量化、(2)兵力、兵器体系、任務の極度の専門化、(3)エレクトロニクスを駆使した巨大なインフラ、(4)高度の機動力、(5)タイミングへの力点の増大、(6)正面攻撃より敵の通信・補給線の遮断の重視、(7)宇宙利用への広範な依存、(8)高度の教育を受けて、目的意識に富んだIQの高い兵士、(9)通信、管制のスピードアップによる戦闘運営の同時化、(10)人命の尊重、非殺傷化などです。
IT革命は、人類に経済・社会上の恩恵をもたらすとともに、安全保障上の新しい課題も突きつけています。コンピュータ・ウィルスを散布して敵の指揮系統や情報通信インフラを破壊するサイバーテロなど、国境線を外敵から守るという意味での伝統的な安全保障観では対処できない問題が生じています。
インターネットには、言語の壁を除いて、国内と国際の区別はほとんど存在しません。IT革命によって、さまざまな情報が国境を意識することなく交流するようになると、国家は国内を統制する能力が低下して時代遅れとなり、究極的には消滅する運命にあると唱える人もいます。
しかし、国家主権の内容が変質しても、国家の役割そのものはなくならないでしょう。情報は真空を流れるのではなく、人間が社会的に構築した制度の中を流れるからです。制度を作るには、一定の政治的権威が必要です。今、国家には、非政府組織と協力しながら、インターネット時代にかなった新しい社会制度の整備が求められています。
(c) 中沢 力(Nakazawa, Tsutomu)
(*) 本稿は、日本通信教育連盟の『常識講座』「第4章 国際関係への視点」へのエッセイとして執筆したものです。これはまた、2001年3月出版予定の「情報安全保障」(赤根谷達雄編『新しい安全保障(仮題)』亜紀書房)の結論部分を圧縮したものです。